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仙台高等裁判所 昭和52年(ラ)52号 決定

抗告人(債権者)

田代牧野畜産農業協同組合

右代表者理事

高橋顕光

右代理人

山崎智男

相手方(債務者)

佐々木峯四郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。別紙記載の内容の仮処分を求める。」というものであり、抗告の理由の要旨は「原決定のいう第二次仮処分は、同第一次仮処分に抵触する違法な仮処分である。このことは、抗告人の申請にかかる第一次仮処分を廃止または変更するものであり、その結果、第一次仮処分が満足的仮処分であるにもかかわらず、相手方が現に工事を続行している。抗告人は現状を維持する必要があるため本件仮処分申請に及んだものである。」というにある。

二本件において、第一次仮処分、第二次仮処分とは、原決定理由に記載されているところのそれに従い、第三次仮処分事件とは、抗告人の申請にかかる青森地方裁判所昭和五二年(ヨ)第一六四号土地現状変更禁止仮処分事件をいう。

三相手方申請にかかる第二次仮処分命令第一項は、抗告人(債務者)に対し、青森市大字駒込字南駒山一番二四四放牧地一三〇四九一一三平方メートル中に所在する通称「毒水源」(同命令別紙図面(二)中杭木の表示に囲まれた部分(以下「本件土地」という))及び右周囲になす相手方の(一)土石流を防止する土止め工事(二)土砂及び汚水を放流するため新たになす側溝掘削工事(三)鉱水源保全のための周辺杭木打設工事(四)危険防止及衛生安全管理のための鉱泉源周辺の有刺鉄線工事(五)鉱泉利用の際のポンプ等汲上設備工事並に害虫風雨から避難するための上屋工事(六)既存の遊歩道改良工事(七)以上の工事に付帯する工事を妨害してはならない旨の不作為を命ずるものであり、同命令第二項は、右(四)の有刺鉄線で張りめぐらされた範囲内の土地に相手方(債権者)の利用を妨害するために立入つてはならない旨の不作為を命ずるもの、同命令第三項は、抗告人(債務者)が、鉱泉源にいかなる工事もしてはならない旨の不作為を命ずるものである。

四これに対し、抗告人の申請にかかる第三次仮処分事件の申請の趣旨第一項は、本件土地とほぼ範囲を同じくする土地について、相手方は、第一次仮処分命令にいう杭、U字溝その他の工事の続行として、(一)側溝掘削工事(二)杭木打設工事(三)有刺鉄線工事(四)湧きつぼ上のポンプ汲上げ設備工事(五)同上の上屋工事(六)以上の工事に付帯する工事等による現状変更禁止を求めるもので、第二次仮処分命令と第三次仮処分申請の趣旨の各別紙図面(一)、(二)を比照すれば、第二次仮処分命令第一項で妨害を禁止されている各工事と第三次仮処分事件の申請の趣旨第一、二項で禁止を求めている各工事とは同一のものであり、右命令と申請の趣旨とは、この点で抵触するものである。また、第三次仮処分事件の申請の趣旨第三項は、本件土地及びその周辺の土地の執行官保管を命ずるもので、相手方の工事のための占有を許す旨の例外がないから、第二次仮処分命令第一項に抵触するものである。

五つぎに、本件第一次仮処分命令の別紙物件目録、別紙図面と本件の第二次仮処分命令の別紙図面(一)、(二)とを比照すると、第一次仮処分命令の対象土地と本件土地及びその周囲の土地(すなわち第二次仮処分命令の対象土地)とは、ほぼ位置、範囲を同じくするところ、第一次仮処分命令第二項は、これに設置された杭、U字溝の工事の中止と右工事の続行禁止を命ずるもので、右各図面によれば、第二次仮処分命令第一項の工事妨害禁止の命令により保護される工事と一致することが明らかで、第一次仮処分と第二次仮処分とはこの点で抵触を避けられない。

他方また、第一次仮処分と第三次仮処分の申請の趣旨とは、一部内容において競合するものといわねばならぬ。

六以上みてきたところによれば、本件第二次仮処分の一部は、第一次仮処分に抵触し、第三次仮処分申請の趣旨は、右違法な第二次仮処分と抵触するのである。従つて、本件においては、第二次仮処分が、さらに先行する第一次仮処分に抵触して違法な場合、第一次仮処分と競合し、かつ、第二次仮処分と抵触する第三次仮処分により、右違法な第二次仮処分の廃止、変更あるいはこれにより形成された法律状態の除却を求めることが許されるか否かの問題を包含するものであつて、単に、第二次仮処分と第三次仮処分との抵触を検討するだけでは足りないというべきである。

よつて検討するに、適法な第一次仮処分の債務者が内容においてこれと抵触する第二次仮処分を申請することが許されないことは当然であるから、本件第二次仮処分命令中、第一次仮処分に抵触しない部分については、本件第三次仮処分申請は、右の理により許されない。

つぎに、本件第二次仮処分命令中、第一次仮処分に抵触する部分は、無効であるか、少なくとも、その執行が第一次仮処分によつて制約を受けて執行不能に帰するものと解すべく、それ故に、第一次仮処分債権者である抗告人が、これと同旨の第三次仮処分を求めることは、保全の必要がないものとして許されない。仮に、第二次仮処分による事実上の脅威を防ぐため第二次仮処分の事実上の廃止等を目的として第三次仮処分を求める必要があるとしても、右は仮処分の目的を超えるもので、もとより許されるべきものではない。

仮処分の廃止、変更、執行の除却は、仮処分異議、民事訴訟法七五九条による命令の取消し(同法七四五条二項、七四七条一項の準用)、執行自体の取消し(同法七四三条、七五四条一項の準用)など、仮処分命令、その執行等を廃止、除却すべき手続として予定された手続によるべきである。

以上、いずれの観点よりするも、本件第三次仮処分申請は許されないものである。

七原決定中本件第一次仮処分と第二次仮処分とが全く抵触しない旨の説示は相当でないが、抗告人の第三次仮処分申請が不適法なものとしてこれを却下した原決定は結論においては正当としてこれを是認することができる。

八よつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(石井義彦 守屋克彦 田口祐三)

【別紙 仮処分決定】

一、債務者は別紙物件目録記載の土地のうち別紙図面表示の湧きつぼ(毒水源)およびその周囲において青森地方裁判所昭和五二年(ヨ)第一六〇号工事中止等仮処分決定に定める杭、U字溝その他の工事の続行として側溝掘削工事、杭木打設工事、有刺鉄線張工事、湧きつぼ上のポンプ等汲上のポンプ等汲上げ設備工事、上屋工事その他右工事の付帯工事等右土地の現状を変更する工事をしてはならない。

二、債務者は右湧きつぼから約五〇メートル西方にある賃借地に至る遊歩道の周囲の現状を変更してはならない。

三、第一項の現状を維持するため、右図面表示の緑色の線をもつて囲んだ線内部分の土地を青森地方裁判所執行官に保管を命じ執行官はこれを適当な方法で公示しなければならない。

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